Bleu by bleu


リビングに置きっぱなしになっていたほたるの国語の教科書。
暇つぶしというわけではなかったが、
ページをめくっているとある短歌が目に入った。


白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ   若山牧水


「空のあおと海のあお、
どのあおにも染まれない鳥…か。
みじめだな」

「まるで誰かさんのようね」


声をたてず、
でも笑いを隠そうとはしないみちるの横顔を、
少しむっとしつつ反論してみる。


「お言葉を返すようで悪いんだけど、
君、僕が『天空の戦士』だということ忘れてない?」


開放的な窓の外を横目で見やると、 一面に広がるブルースカイ。
自分のフィールドはあの清んだあおのなかにあると自負してる。
漂うことしかできない鳥ではない・・・と。
それなのに・・・


「あら、でもあなたは『風』でもあるじゃなくって?
風に乗ってどこまでも自由に飛んでいける鳥は風の象徴よ。
二つのあおに挟まれながらも自分のカラーを貫く白い鳥
・・・はるかにぴったりじゃない」


何食わぬ顔でそう言ってのけた声にしばし呆然としながらも、
かなわないなと思う。
僕よりも僕を知っているだろう彼女には所詮敵わないんだ。
こんな他愛のない言い合いでも。
惚れた弱みのせいだと勝手に思ってはいるけれど、
彼女に勝てる日がいつか来るとも思えなかった。
胸の中でそう結論をだし、
静かにため息をつくと彼女は満面の笑みを返してきた。
きれいな笑顔。
彼女のこのように静かに微笑む姿を見ているだけでも幸せだと思う。

現金だな・・・僕も。

でも言い負かされっぱなしなのも癪だから意趣返しといこうか。


「でも僕が鳥なら海のあおになら染まってもいい。
いや、染まりたいな」


近づいて耳元でそっと囁くと、
くすぐったそうに身をよじる彼女の姿に満足する。
彼女の数少ない弱点を知っているのも僕だけ。
それがたまらなくうれしい。


「ずるいわ、知っていてするんですもの」


「だから、だろ?」


後ろから腰を抱きしめ頬に小さくキスをおとす。
でも彼女は知らない。
僕が冗談めかして言ったこの言葉が
どれだけ本気かなのかを。
そう。
深海の戦士の元へも永遠に近づけないのであれば
たとえ自分のフィールドを捨てこの身を海に落としても・・・


「だめよ」


腕の中の彼女が小さく、
でも力のこもった声で言った。
が、しばし思いをめぐらしていた僕はとっさになんのことかわからなかった。


「だめって何が?」


「はるか一人にだけ落とさせたりしないわ。
あなたが落ちる時は私も一緒。
忘れないで。」


不意打ちの告白にらしくなくあわてた。
声に出してはいなかったはずだ、
まさか密かに誓ってたことをいいあてられるなんて。

どうしてわかったのと訪ねると。
「はるかはわかりやすいのよ」と笑って言われた。
そんなつもりはなかったんだけどな・・・
やっぱり、彼女には敵わない。



=========================
教育実習で短歌を教えた際に、
中学の頃に考えたこの話を思い出し、文にしてみました。
初めてこの短歌を知った時に「絶対この二人の話だ!」と思ったのです。
甘い雰囲気にしたかったんだけどできてるでしょうか?
これははるか視点ですが、みちる視点も対であります。それはまたいづれ。
とりあえず初めは今でも大好きなこの二人からでした。
短歌参照 三省堂 現代の国語2