Bleu by bleu -another side


手持ち無沙汰そうにしていたはるかが手を伸ばしたのは、
ほたるの国語の教科書。
現国が嫌いなはるかが手をつけようと思ったほどだから、
さっきかまってあげなかったのによっぽど拗ねているのね。
紙をめくる規則正しい音が急に止まったのが気になって目をやると、
あるページを熱心に見つめていた。


「空のあおと海のあお、どのあおにも染まれない鳥…か。みじめだな」


このつぶやきから何を見ていたのかがすぐにわかった。
もしこの短歌を目にしたならはるかが関心を寄せるであろうことは予想がついていたし、
なにより私が大好きな歌だったから。


「まるで誰かさんのようね」

そう思うと笑いを隠すことができなくて、
言葉にも出てしまう。
それを聞いたあなたがむきになって反応することは目に見えてるけど。


「お言葉を返すようで悪いんだけど、君、僕が『天空の戦士』だということ忘れてない?」


ほらやっぱりね。
案の定、空一面に広がるあおいろを見上げながら拗ねた口調で言うあなた。
そんなあなたでもう少し遊びたいけれど、
でもそろそろ止めておかないとね。


「あら、でもあなたは『風』でもあるじゃなくって?
風に乗ってどこまでも自由に飛んでいける鳥は風の象徴よ。
二つのあおに挟まれながらも自分のカラーを貫く白い鳥
・・・はるかにぴったりじゃない」


この歌を初めて見た時からずっと思っていたこと。
まるであなたのことを歌ったかのように当てはまる言葉たち。
まだ見ぬあなたに恋焦がれていた頃から、
この歌からあなたを思い描いていた。

だから私はこの歌が好きなの。
でもまだ教えてあげないわ。
これは私だけの秘密。

そんな私の気持ちがバレたのかしら、
はるかがこちらに向かってくる。


「でも僕が鳥なら海のあおになら染まってもいい。
いや、染まりたいな」


耳元でそっと囁やかれ、
くすぐったさに身をよじるとはるかが笑ったのがわかった。


「ずるいわ、知っていてするんですもの」


私の数少ない弱点。
知っているのはあなただけ。


「だから、だろ?」


後ろから抱きしめられて頬に小さくキスがおちてくる。
まるで何かを隠すような仕草から気づいてしまった。
そう、あなたが何を思っているのかを。


「だめよ」


とっさに言っていた。
冗談めかしていったあの言葉に、
どれだけはるかの本音がつまっているのかを
わかってしまったから。

それなのにはるかったら。

「だめって何が?」

なんて言うんですもの。
私が気づかないとでも思ったの?


「はるか一人にだけ落とさせたりしないわ。
あなたが落ちる時は私も一緒。
忘れないで。」


あわてたところをみると私には気づかれてないと思ってたのね。
「どうしてわかったの」なんて聞くから、
つい「はるかはわかりやすいのよ」なんて言ってしまったじゃない。
でもこれは、半分本当で半分は嘘よ。
あなたのことならなんでもわかると思いたい私の勝手。
でも自惚れじゃないと信じていいのよね?
はるか。



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自分で書いてて「なんだこの二人」と思うほど前のより甘くなってしまいました。
たぶんこの二人は「自分の方が相手のことをより愛しく思ってる」と思ってるんです。
いいすれ違い。
だから誰にも入る余地がないんです(笑)