あの時空を越えた世界から、私は知盛と一緒に元の世界に戻ってきた。
付き合うようになってから分かったことは、
思っていた以上のあの人の嫉妬深さ、独占欲の強さ。
将臣くんや譲君と話しているだけでもだんだんと機嫌が悪くなるんだもの。
あの二人は幼馴染だって知盛だって知っているはずなのに。
それに加えて、気付いたらいつもあの人の独特のペースにのまれてしまっている。
「お前の世界とやらまでつきあったんだ…それくらい当然…だろう?」なんて言われて、
言い返せなくなってしまう自分が悪いのだけれど。
そんな、毎回流されてしまう自分が少し悔しくて。
たまには私が知盛を振り回してみたくて。
そう思ったら行動あるのみ!とばかりに作戦を練った。



手始めに「明日、公園で待ってて」と強引に約束を取り付けた。
「めんどくさい」と渋る知盛をその気にさせるのは苦労したけど、
「公園なら昼寝も気持ちいいから」の一言が決め手だった。
「ふん、…いいだろう」と了解の言葉を聞きつつ思ったのは
「どうしてこんなにも昼寝が好きなんだろう…」だったけど。
なんにせよ、約束はとりつけた。
明日は一気にいろんなところに付き合わせるんだから!!


そして今。

私の目の前の光景はというと。




「本当に寝てる…。」



木陰で寝入ってる知盛の姿だった。
冗談で言ったのにまさか本当に寝ているなんて…。
込み上げてくる笑いをこらえつつ、起こさないように隣に座る。
銀色の髪が木漏れ日に当たってきらきらと光るのがとても綺麗で。
少し長めの前髪を指先で触れながら、寝顔に見入ってしまっていた。
そう、完全に寝ていると思っていたから油断していた。
前にも同じことがあったのに。

「きゃっ……!」

気付いたら知盛の方に倒れこんでいる自分がいた。
不意打ちの驚きの方が大きくて、
腕をとられ引き寄せられたんだと頭が理解したのは大分後のことだった。


「なっ!?知盛!起きてたの??」

「あぁ…。これでも武士なんでな…。眠りは…浅いんだ」
「……。なら座った時に声をかけてよ…」
と体勢を整えながらつい未練がましく呟いた私を横目に知盛が次に取った行動は…。


「ちょっと!!何してるの??」

「お前が俺の眠りを妨げたんだ…。これくらい、どうってことないだろう…?」

そう言って自分の膝の上で寝息を立て始めたこのやっかいな恋人を
一体どうしたらいいというのだろう。
これは…次に目を覚ますまでこのままでいろってことよね…。
今日は知盛を振り回すはずだったのに、振り回されてるのはやっぱり私じゃない…。
そう改めて自覚すれば、諦めを含んだ深いため息も出る。
このまま強引に立ち上がることもできるけれど、
でもすぐ下にある寝顔があまりにも満足そうにしているから、
仕方ない、もう少しだけこのままでいてあげよう。

でも!絶対このまま引き下がらないんだから!
いつか絶対振り回してやるんだから!!
と密かに心の中で誓っていたら。
膝の上から「無理だな…」という声が聞こえてきた…。


あれ、私、今口に出してた……?

……。

やっぱり……
この人に勝つなんてムリかも……。




桜の樹の下で、ひとり思うこと。






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初知望SS。あまりにも短いためSSというよりも小噺に近いですが…。
遊びでやった阿弥陀で残っていたお題「膝枕」と「木の下で佇む二人」を無理やり同時にやりました。
今回、チモリが難しくて散々苦しめられたんですが、
それでもこれは完全に偽チモですね…
本当のチモリはこんなじゃないよ…(泣)