注意!
この話は、天の青龍が大変かわいそうなことになっています。
天の青龍が好きな方は見ないほうが賢明かと…
読み終わってからの苦情等は受け付けません。
将臣くんがどんな目にあっててもいいという寛大なお心の神子様方は
スクロールしてどうぞ。




























過ちだったとは思いたくない。




その望美からの提案は突然だった。

「えぇ?オレたちの服を交換するのかい?」

「うん。いつも着ている皆の服を交換したら面白いんじゃないかと思って。」

「ふうん、将臣の服ねぇ。
まぁオレはいいけどさ、
お前はやめておいた方がいいんじゃない?」

「ん?面白そうじゃねぇか、やってみようぜ」

常なら「面倒くさいぜ」と一蹴する将臣が
今日は何故か上機嫌で尚且つ乗り気であることに少し驚きつつも
「将臣くん、面白いことには目がないからなぁ」
と変に納得していた望美は気付いていなかった。
隣のヒノエが密かに含み笑いをしていたことを…。


「ふふ…。(まぁ、オレは一応忠告したからね)」



……着替え中……





そして数分後。



「ヒノエくん、将臣くん、できた?」

「ああ、姫君。今行くよ」

「……。」



始めに出てきたヒノエに望美は一瞬言葉を無くした。
常の軽量な衣装とは対照的な重厚な鎧がひどく新鮮に感じたからだ。
ついまじまじと見ていたら痺れを切らしたヒノエから声がかかった。

「どうかな、姫君?」

「うん、シックな感じだね」

「ん?しっく?」

「あ、えっと。色合いが落ち着いたってことだよ。
上着とヒノエくんの髪の色が一緒だからかな。」

「ああ。そうだね」

「それに、露出が少なくなったよね。」

と、つい本音を口に出してしまってから望美は後悔した。
これではヒノエにまたからかいの元を与えてしまったようなものだ。
その証拠に目の前の彼は艶やかな流し目で見つめてくる。



「ふふっ、姫君は肌が見えてた方がお好みかい?」

「っ!!違うよ!!
大人っぽくなったって言おうと思ったのに、前言撤回!」

「まあ、そういうことにしといてあげるよ」

「もう、ヒノエくんたら!」



一気に赤面した望美を見てヒノエは満足気な表情を浮かべる。
これ以上のからかいは否ときちんと引き際を見定めているところは
流石ヒノエといったところ。
最も、からかわれている当の本人は気づいていなかったが…。

しかし、別のことには気がついた。
ここに居るはずの人物が足りない。
そうなのだ。
衣装を取り替えたはずのもう一人、
将臣が一向に姿を見せない。



「あ、あれ?そういえば将臣くんは?」
「まだみたいだね。
(だからいいのかって言ったんだよ…)」



ふふっと心の中で笑っているヒノエにはやはり気付かず、
望美は将臣が着替えるために入った部屋に向かって呼びかけた。



「将臣くん?まだー?」

「あ、ああ。できたはできたんだが…。なぁ望美。」

「なあに?」

「…やめてもいいか?」



いつもの将臣らしくない、
歯切れの悪い返事に望美が疑問を感じないわけがない。



「なんで?」

「何故って…。」

「将臣、オレは姫君のために着て見せたんだぜ?
お前が見せないのは卑怯じゃねぇ?」



やっぱり、いつもの将臣くんらしくないと望美が首をひねっているところへ
ヒノエから容赦ない声がかけられた。
最も、容赦がないのは将臣に対してのみ。
完全にわかっている上でのその言葉に、
将臣が苦々しい声で反応してしまうのは当然のことだろう。



「ヒノエ…お前わかって言ってるだろ…」

「さあてね。それにオレは忠告したぜ?」



これについていけないのはこの提案を言い出した張本人。



「?なんのこと?」

「見ればわかるよ、姫君。
それじゃあオレは済んだし、もう行こうかな。
将臣、ちゃんと姫君に見せてやんなよ。じゃあな」



含んだ言い方をしてさっさと行ってしまったヒノエに
「あとで借りはきっちり返してやる」と将臣が思ったのは言うまでもないだろう。
しかし、ヒノエが去ったところで彼にはまだ問題が残っていた。
それは…。



「ねぇ将臣くん、まだかかる?」



この天然な幼馴染にどうやって今の状況を諦めさせるかだ。
どうやら本気でわかっていないらしい。
この世界にきて3年になるが、
それでもこれほどまでに悩んだことはないのではないかという錯覚すら覚え、
頭を抱えたくなるのを将臣は必至に堪えた。



「望美、お前…笑わないか?」

「?笑わないよ?たぶん…。」



そのなんとも頼りない返事に、
将臣はますます頭を抱えたくなった。



「多分ってお前なぁ」

「だって見てみないと分からないもの。
ね、もう着替えてはあるんでしょ?」

「あ、ああ」

「じゃあ空けるね!」

「お、おい!お前、ちょっと待てっ!!」



将臣の制止の声も虚しく、
開かれた襖から望美が見たものは…。




もちろんヒノエの服をそのまま着た将臣。



「………」

「………」



実際はほんの数秒の沈黙が
将臣には途方もない時間に思えてしかたなかった。
自分を見たまま止まってしまった幼馴染。
怖れていた反応がすぐにないことがさらに自分を居た堪れなくする。
こうなったからにはもう開き直るしかないと思い始めていた将臣の耳に
それまでの重苦しい(と感じていたのは将臣だけであったが)沈黙を破って望美が言った言葉は…。



「…将臣くん。」

「なんだ。笑いたければ笑えよ。」

「笑わないよ。約束だもん。でも…」

「でも…?」

「うん。
スパッツと生足はもうやめておいた方がいいかもね」

「………」

「じゃあ、私もう行くね!あー楽しかった!」



そう言って清々しく去る望美の後姿を呆然と見送る将臣が、
「笑われなかっただけましなのか?いや、いっそ笑われてれば……」
と呟く姿を他の誰にも見られなかったのは彼にとって唯一の幸いだった。




ちなみにその頃のヒノエはというと。

「オレ以外の野郎の生足を見るなんて冗談じゃないぜ。
 ま、でもこれで将臣は無くなったかな。
さぁて、次はどいつにしようか…」

龍神温泉での不機嫌がまるで嘘のような上機嫌で
望美獲得のための新たに策を巡らすのであった…。