「大佐!!」

「ちゃんと定時までに終わらせただろう?
言ったじゃないか。
定時までに終わらせたら褒美をくれる…と」

「こんなことをするとは言っていません!」

「これがいいんだ。」



見上げる瞳、見下ろす瞳。



前が見えなくなるほど積まれた書類を
なんとか定時15分前に終わらせ、彼女を呼んだ。
書面に目を通しサインをするという単純作業ながら
あの量はさすがに疲れた。
応接セットに身を沈め、
最終チェックをする彼女の「お疲れ様でした。」の言葉を待つ。
やれやれこれで本当に終わったな。


「日頃からきちんとやっていただければこんなに溜まることもないんですよ?」
との言葉を遮って彼女を呼んだ。

「中尉」

いつもはしない手招きまでして呼ぶと
怪訝な顔をしながら近づいてくる。
立ち止まる瞬間を狙って手を引いた。
そのまま引き寄せると意外にあっさり腕の中に納まった。


「っ、急になにをするんですか!」

「中尉ともあろうものが油断していたか?」

「……予測範囲外でした。…離してください」

「いやだと言ったら?」

………………


「…ハァ。今だけですよ」
「これがいい」と再度言うと
抵抗する気も失せたのか、ため息と共にそんな言葉が頭上から落ちてきた。
腰に置いておいた腕をゆっくりと背中に回す。
あいかわらず細い。
力を入れたら折れてしまいそうだと何度感じたことか。
いま少し、腕の中の彼女の感覚を楽しもうと思っていたが、
間近で視線を感じ、顔をあげる。
綺麗なヘ―ゼルアイだ。
彼女の目をこんな近くで見たのは何日ぶりだろう。
最近忙しくてろくにこういう時間もとれなかったからな。
いつもはすぐそらされる視線が、
どうしたことか今日はそのまま見つめられる。
めずらしい。


「私の顔に何かついているか?」


常と逆の立場をとられるとこうも気恥ずかしくなるものなのか。
照れ隠しとしてはあまりにもお決まり過ぎる言葉が口をついた。


「いいえ。ただ…」

「ん?」

「いつも見下ろされているので…、
こうやって見上げられるのもたまにはいいな、と。
そう思ったんです。」


……。
これは…なんだ、
たまには自分が主導権を握りたいとでも言っているのだろうか。
いや、しかしな。
聞いてみたい気もするが、
聞いたら確実に銃を向けられるだろうな…。
いや、その前に、
こんなに素直になっている貴重な時間を手放すのはおしいな。
やはりここは黙っておいたほうが得策か。


「大佐?」

「ん?あ、あぁ。そうか…」

「はい。」


しかし、どうしたんだ、今日のリザは。
よほどのことがない限りおれてくれはくれるが、
これではいつもと違いすぎるが…。
まあいい。
素直になっているのをおかしいというのも変な話だ。
それにしても、
彼女に主導権を渡すつもりはないが…
たまにはこういうのもいいかもしれんな。

心なしか楽しそうなリザの顔を見ていたらそんな気にすらなっていた。



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なんてことはない、リザに抱きついて彼女を見上げるロイを書きたかっただけ。
リザが大佐をじっとみてたのはロイの見上げる姿を
「いい年した大人なのにどうしてこんなにかわいいのかしら…」と思って見てたんです。
だってかわいくないですかね?いつも見下ろしてる立場の人が見上げてる姿って!
あぁ…こんなとこにも悲しいかな長女気質が…
ときめきシチュエーションを聞かれた時に考え付いた一つでしたが、
単純すぎてあまりにも恥ずかしかったためどうせならと二人にやってもらいました。
あ、リザが珍しく素直だったのは彼女も彼女なりに寂しかったんだと思います。
なんにせよ、ロイの日にちなんで彼にいい思いをさせてみました(笑)